社労士解説【勤怠管理基礎知識】働き方改革/フレックスタイム制

フレックスタイム

社労士解説【勤怠管理基礎知識】働き方改革/フレックスタイム制

2019年4月の法改正により、働き方改革の一環としてフレックスタイム制の見直しが行われていることをご存じでしょうか。フレックスタイム制は、労働時間を従業員が自ら決めることによって効率的で柔軟な働き方ができる、ワーク・ライフ・バランスの推進にうってつけの制度です。
本記事では、フレックスタイム制の知っておきたい基礎知識について解説します。

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この記事の目次

    フレックスタイム制とは何か

    フレックスタイム制とは何か

    フレックスタイム制とは、一定の期間(清算期間)を平均して1週間の労働時間が40時間以内になるようあらかじめ総労働時間を定め、従業員自らがその範囲内で日々の始業・終業時刻を決定し、労働時間を調整できる制度です。

    従来、この清算期間は1ヵ月以内とする必要がありましたが2019年4月の労働基準法の改正により、清算期間の上限が3ヵ月に延長され、月をまたいだ柔軟な労働時間の調整が可能となりました。

    変形労働時間制と呼ばれる労働時間制度の中でも、テレワークにも応用できるフレックスタイム制は、従業員が始業・終業の時刻を自ら柔軟に選択できる、「働き方改革」の目的に合った制度といえます。

    フレックスタイム制のメリット

    フレックスタイム制のメリット

    フレックスタイム制導入により得られるメリットは、多岐にわたります。
    従業員と企業双方のメリットについて見ていきましょう。

    従業員にとってのメリット

    従業員にとって最大のメリットは、日々の出勤時間や退勤時間をある程度自由に決められることにあります。あらかじめ決められた総労働時間を守りさえすれば、自分のプライベートの都合に合わせて出退勤の時間を自由に調整することができるため、まさにワーク・ライフ・バランスの推進にうってつけの制度といえるでしょう。

    例えば、以下のような場面で効果的です。

    • 子どもの保育園の送り迎えや急な病気のため、出勤を遅くしたり早く帰ったりしたい
    • 子どもが夏休みとなる8月は労働時間を短くし、その分6月や9月に多く働きたい
    • スキルアップを目的とした資格試験のために、試験前は勉強に集中したい
    • 定期的な通院が必要で、早く帰りたい

    企業にとってのメリット

    ワーク・ライフ・バランスの推進は、企業にとっても生産性の向上と従業員の定着率の向上をもたらします。従業員それぞれの事情に合わせて働き方が選択できるフレックスタイム制の導入によって、以下の効果が期待できます。

    • 労働時間の効率的な配分による労働生産性の向上が図れる
    • 働きやすい職場となり、従業員の定着率向上、優秀な従業員の離職防止が期待できる
    • 働きやすい職場をアピールすることで、採用時に人材が集まりやすくなる

    その他具体的なメリット

    その他にも、フレックスタイム制の導入により柔軟な働き方を推進するメリットは、たくさんあります。

    • 労働時間が長くなった日の翌日は出勤時刻を遅くするなどといったメリハリのある働き方が可能であり、勤務間インターバルと同様の働き方ができる
    • 繁忙期と閑散期で労働時間を調整できるため、無駄な残業時間の削減が図れる
    • 業務計画、スケジュール管理を自ら行うことで、従業員の自主性・計画性の面で成長が期待できる

    フレックスタイム制のデメリット

    逆にデメリットはなんでしょうか。
    フレックスタイム制は、始業・終業の時刻を従業員の裁量に委ねることが必要です。そのため、導入が難しい業務や職種もあります。また、従業員の能力や業務内容によっては、デメリットとなる可能性もあります。従業員と企業双方のデメリットを見てみましょう。

    従業員のデメリット

    • コアタイムやフレキシブルタイムを設定しないと自己管理が難しい

      コアタイムとは、フレックスタイム制においても必ず働かなければならない時間帯、フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において従業員自らの選択で労働時間を決定することができる時間帯、つまりいつ出社しても退社してもよい時間帯のことです。

    • チームで活動する場合や複数の人数で行う業務の場合、他の従業員との時間調整が難しくなる

    企業のデメリット

    • 遅刻、早退という概念がなくなり、時間にルーズな社員に注意ができず、スケジュールも把握しづらい
    • コミュニケーションが取りづらくなったり、会議の調整が困難になる
    • 店舗など営業時間が決まっている業種では、顧客に迷惑をかけることがある
    • 一部の部署だけに導入すると不公平となり、従業員の不満の元となる
    • 取引先とのやり取りや取引先の都合で動くことが多い場合は、従業員自身で始業時刻・終業時刻を決定できず、導入メリットが少ない
    手間のかかる勤怠管理、効率化しませんか?

    フレックスタイム制導入の仕方

    フレックスタイム制導入の仕方

    フレックスタイム制を導入するには、「就業規則等への規定」と「労使協定の締結」の2つの要件を満たす必要があります。

    1 就業規則その他これに準ずるもの(就業規則等)への規定

    就業規則等に、始業および就業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めておくことが必要です。 

    2 労使協定の締結

    労使協定には、以下の6つの事項を定めます。ただし、5と6については任意です。

    • 1.対象となる労働者の範囲
    • 2.清算期間
    • 3.清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
    • 4.標準となる1日の労働時間
    • 5.コアタイム(※任意)
    • 6.フレキシブルタイム(※任意)

    コアタイムとは、フレックスタイム制においても必ず働かなければならない時間帯のこと、フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において従業員自らの選択で労働時間を決定することができる時間帯、つまりいつ出社しても退社してもよい時間帯のことです。

    なお清算期間が1ヵ月を超える場合は、「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届」を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があるため、注意しましょう。

    就業規則等への規定

    パート・アルバイトを含めて、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、必ず就業規則を作成しなければなりません。始業・終業の時刻に関する事項は、就業規則に必ず定めなければならない「絶対的必要記載事項」に該当します。10人未満の従業員を使用する事業場には、就業規則の作成義務はありませんが、定めた内容を書面にして従業員に周知することが必要です。

    愛知県のホームページにある「わかりやすい 中小企業と就業規則」内の第2部 モデル就業規則では、モデル就業規則の中にフレックスタイム制の規定例が掲載されているため、参考にしてはいかがでしょうか。

    フレックスタイム制(清算期間が3ヵ月の場合)による規定例

    (愛知県「わかりやすい 中小企業と就業規則」から抜粋)

    (労働時間及び休憩時間)
    第 22 条 フレックスタイム制の適用対象となる従業員の所定労働時間は、清算期間を平均して1週間あたり 40 時間以内とし、始業及び終業時刻は、その自主的決定に委ねることとする。

    • 2前項の清算期間は、1月・4月・7月・10 月の各月の1日を起算とする3か月間とし、各期間における所定労働時間は、次のとおりとする。
      8時間×各期間における所定労働日数
    • 3標準となる1日の労働時間は8時間とする。
    • 4始業及び終業時刻について従業員の自主的決定に委ねる時間帯(フレキシブルタイム)は、次のとおりとする。
      始業時刻 午前○時から午前○時まで
      終業時刻 午後○時から午後○時まで
    • 5従業員が勤務を要する時間帯(コアタイム)は、次のとおりとする。
      午前○時から午後○時まで
    • 6休憩時間は、正午から午後1時までとする

    労使協定で定める事項の説明

    労使協定を締結する際のポイントを見ていきましょう。

    1.対象となる労働者の範囲

    全従業員を対象とするだけではなく、対象の範囲を部署・課・係ごとに定めることも、各人ごとに定めることも可能です。フレックスタイム制が適さない業務や部署も考えられるため、労使で十分話し合い、労使協定の中で対象となる労働者の範囲を明確にしましょう。

    2.清算期間

    清算期間とは労働者がフレックスタイム制により労働しなければならない時間を定めるための一定の期間のことです。2019年(平成31年)4月1日の法改正によって、清算期間の上限が1ヵ月から最大3ヵ月に拡大されました。一定の期間を定めると同時にその起算日も定めてください。

    3.清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)

    労働契約上、労働者が清算期間に労働しなければならない労働時間の合計が、清算期間における所定労働時間に該当します。フレックスタイム制では、この清算期間を単位として所定労働時間を定めることが必要です。

    清算期間における総労働時間は、法定労働時間の総枠の範囲内とし、計算式は以下のようにして求めます。

    清算期間における総労働時間≦清算期間の暦日数÷7日×1週間の法定労働時間(40時間)

    常時10人未満の労働者を使用する商業、映画の製作を除く映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業などの特例措置対象事業場の場合、清算期間が1ヵ月以内の場合は週平均44時間までとすることが可能です。

    ただし、清算期間が1ヵ月を超える場合、特例措置対象事業場であったとしても、週平均40時間を超えて労働させるには36協定の締結と届出、割増賃金の支払いが必要になります。(労働基準法施行規則 第25条の2第4項)

    例えば、1ヵ月単位、2ヵ月単位、3ヵ月単位での「清算期間の暦日数」が以下のようになる場合、「法定労働時間の総枠」は、以下の通りです。清算期間における総労働時間は、以下の表に基づき、それぞれの法定労働時間における総枠の範囲内で定めてください。

    1ヵ月単位 2ヵ月単位 3ヵ月単位
    清算期間の
    暦日数
    法定労働時間
    の総枠
    清算期間の
    暦日数
    法定労働時間
    の総枠
    清算期間の
    暦日数
    法定労働時間
    の総枠
    31日 177.1時間 62日 354.2時間 92日 525.7時間
    30日 171.4時間 61日 348.5時間 91日 520.0時間
    29日 165.7時間 60日 342.8時間 90日 514.2時間
    28日 160.0時間 59日 337.1時間 80日 508.5時間

    労使協定では、清算期間における総労働時間を「1ヵ月160時間」というように、一律の時間を定めても問題ありません。また、清算期間における所定労働日数を定め、「所定労働日1日当たり〇時間」と定めることでも問題ありません。

    4.標準となる1日の労働時間

    標準となる1日の労働時間とは、年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間の長さを定めるものです。
    フレックスタイム制の従業員が年次有給休暇を取得した場合、「その日は何時間労働したもの」として取り扱うべきかが問題となります。標準となる1日の労働時間を定めることで、年次有給休暇を取得した際に支払う賃金を算定できます。
    標準となる1日の労働時間は、清算期間における総労働時間をその期間中の所定労働日数で割ることで計算できます。

    5.コアタイム(※任意)

    コアタイムとは、フレックスタイム制においても必ず働かなければならない時間帯のことです。コアタイムを設ける場合には、労使協定にその開始時刻と終了時刻を定めなければなりません。コアタイムは必ず設けなければならないものではなく、時間帯も労使協定で自由に定めることが可能です。

    会議やミーティングなど、必ず出勤してもらわないと困る時間帯が必要になることもあるでしょう。また、コアタイムを設ける日と設けない日を作ることも、日によって異なる時間帯をコアタイムにすることも可能です。

    月間総労働時間を満たせば、コアタイムを設定せずに出勤日や出退勤の時間をすべて自由に従業員が決められる「スーパーフレックス」と呼ばれる働き方も可能です。ただし、スーパーフレックスを認める場合でも、所定休日はあらかじめ定めておく必要があります。また、深夜勤務した場合の割増賃金の支払いは必要です。

    6.フレキシブルタイム(※任意)

    フレキシブルタイムとは、フレックスタイム制において従業員自らの選択で労働時間を決定することができる時間帯、つまりいつ出社しても退社してもよい時間帯のことです。コアタイム同様、必ずしも設けなければならないものではなく、労使協定で自由に時間帯を定めることも可能です。

    フレキシブルタイムを設ける場合には、労使協定にフレキシブルタイムの開始時刻・終了時刻を定めます。フレキシブルタイムの途中で中抜けすることも可能です。

    労使協定規定例、ひな形

    労使協定の規定例を見てみましょう。

    フレックスタイム制に関する労使協定(清算期間が3ヵ月の場合)の例

    • 株式会社○○と○○労働組合は、フレックスタイム制に関し、次のとおり協定する。
    • (対象となる従業員の範囲)

      第1条 フレックスタイム制を適用する従業員は、本社〇○部に所属する者とする。
    • (フレックスタイム制)

      第2条フレックスタイム制を適用することとした従業員の始業及び終業時刻については、その自主的な決定に委ねることとする。
    • (清算期間)

      第3条フレックスタイム制における清算期間は、1月、4月、7月、10月の各月の1日を起算とする3か月間とする。
    • (総労働時間)

      第4条前項の清算期間における所定労働時間は、各清算期間の所定労働日数に8時間を乗じて得た時間とする。
    • (1日の標準労働時間)

      第5条1日の標準となる労働時間は8時間とする。
    • (フレキシブルタイム)

      第6条始業時刻について、従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前6時から午前10時まで、終業時刻について、従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午後4時から午後8時までの間とする。
    • (コアタイム)

      第7条従業員が勤務を要する時間帯は、午前10時から午後4時までの間とし、部署長の承認のない限り所定の労働に従事しなければならない。
    • (休憩時間)

      第8条休憩時間は、正午から午後1時までとする。
    • (有効期間)

      第9条本協定の有効期間は、起算日から1年とする。

    令和○年○月○日

    株式会社 ○○
    代表取締役 ○○○○ 印
    ○○労働組合
    執行委員長 ○○○○ 印

    労使協定届出

    清算期間が1ヵ月を超える場合は、「清算期間が1箇月を超えるフレックスタイム制に関する協定届(様式第3号の3)」に労使協定の写しを添付して、所轄の労働基準監督署に提出します。違反すると「30万円以下の罰金」の罰則が科せられる可能性があります。忘れずに届け出をしましょう。

    協定届の記載例は、厚生労働省の「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」に掲載されています。

    フレックスタイム制の時間外労働

    フレックスタイム制の時間外労働

    フレックスタイム制で時間外労働を行う場合、36協定の締結と届け出が必要です。

    フレックスタイム制では、日ごとの始業および終業時刻を従業員に委ねることになるため、時間外労働のカウント方法が一般の労働時間制度と異なります。
    清算期間を単位として時間外労働をカウントすることになるため、36協定においては「1日」の延長時間は不要で「1ヵ月」「1年」の延長時間を協定することになります。時間外労働が発生し、労働時間が清算期間内における法定労働時間の総枠を超える可能性がある場合には、36協定を締結し所轄の労働基準監督署へ届け出ましょう。

    清算期間が1ヵ月を超える場合

    清算期間が1ヵ月を超えるフレックスタイム制の場合、次の要件を満たさなければなりません。

    • 清算期間における労働時間が、週平均40時間を超えないこと
    • 1ヵ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと

    上記のいずれかを超えた時間は時間外労働となり、36協定の締結・届出とともに、割増賃金の支払いも必要となります。したがって、清算期間が1ヵ月を超える場合は、以下の①②のそれぞれを時間外労働としてカウントする必要があります。

    ①1ヵ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間
    ②清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①でカウントした労働時間を除く)

    つまり、1ヵ月ごとに①により時間外労働をカウントし、清算期間終了後、②により最終月に時間外労働を再度カウントする、2段階に分けた精査が必要になります。そのため、時間外労働が多いケースでは算定方法が少し複雑になるため、注意が必要です。

    フレックスタイム制の休日労働

    フレックスタイム制でも、法定休日(1週間に1日となる労働基準法上の休日)に従業員が働いた場合には、休日労働として35%以上の割増賃金率で計算した賃金の支払いが必要です。法定休日に労働した時間はすべて休日労働としてカウントし、清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個のものとして扱います。

    フレックスタイム制の時間外労働の上限規制

    フレックスタイム制の時間外労働の上限規制

    フレックスタイム制は時間外労働の上限規制の対象です。大企業は2019年4月から、中小企業・小規模事業者は2020年4月から適用されています。

    変形労働時間制の有無にかかわらず、残業時間の上限は、「原則月45時間・年360時間」となり、特別の事情がなければこれを超えることはできません。

    まとめ

    フレックスタイム制は、従業員にとって自己管理が難しく、店舗など営業時間が決まっている業種にはなじまないなどのデメリットがあります。しかし、従業員にニーズのある制度でもあり、企業にとって人材確保や人材育成の点で大きなメリットがあることも確かです。

    導入に適さない業種もあるかもしれませんが、職種や対象とする労働者の範囲を工夫することで、柔軟で効率的な働き方、働きやすい職場づくりが可能となります。一度制度の検討をしてみてはいかがでしょうか。

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    加治 直樹
    • 監修加治 直樹
    • 銀行に20年以上勤務し、融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。
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