給料未払い対応の基礎知識/トラブル事例、罰則・解決方法とあわせて解説【社労士監修】
給料未払いへの対策を疎かにしていると、法律違反による罰則や労働者からの訴訟などが発生してしまいます。
正確な法律知識をもとに運用整備をすることで、トラブルや法令違反のリスクを軽減しましょう。この記事では、給料未払いによって引き起こされるトラブルに関して事例と事前対策方法を交えて解説していきます。
この記事の目次
給料の未払いは労働基準法に違反する行為
給料(賃金)が未払いとなった場合は、労働基準法違反となります。労働基準法第24条では「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められており、違反した場合には労働基準法120条に記載されている「30万円以下の罰金」が科されます。
違法行為になるだけでなく、労働基準監督署などからの介入や、労働者からの訴訟なども予想される、大変リスクの大きな行為です。注意しておかなければいけないのは、天災などにより給料が支払えないような事態に陥っても、その支払い義務は免除されないということです。どのような場合であっても、基本的に給料の未払いは許されないことであると理解しておきましょう。
未払い賃金の対象となるもの
未払い賃金の対象となる賃金とは、以下のとおりです。
●定期賃金
●割増賃金
●退職金
●一時金(賞与やボーナス)
●休業手当
●年次有給休暇分の賃金
●その他労働基準法第11条で定めるもの
上記に記載された賃金を適正に支払わなかった場合、未払い賃金に該当します。さらに、未払い賃金には年14.6%の利息がつくこととされています。(退職金は利息の対象に含まれません。)そのため、時効の範囲内で未払いである期間が長ければ長いほど、本来の賃金よりも多い支払いが必要となります。
また、賃金は労働契約や就業規則で定めた所定の日に支払うことが原則となりますので注意してください。
- (参考):東京労働局 未払賃金とは
未払い賃金の時効
未払い賃金には、労働基準法第115条により消滅時効期間が5年(当面の間は原則3年間)と定められています。(※)なお、退職手当については、消滅時効期間を5年としています。
消滅時効期間を経過すると労働者から未払い賃金の請求をされたとしても時効となりますが、たとえ支払い義務がなくなったとしても、賃金の未払いがあったこと自体が労働者の信用を失うきっかけとなり得ます。時効の有無に限らず、適切な給料支払いができる体制づくりを実施していきましょう。
給料未払いのリスク
賃金の未払いを放置していると、さまざまなリスクを抱えることになります。
ここでは、
①訴訟問題
②労働基準監督署の介入
③労働基準法違反による罰金刑
について解説していきます。
それぞれの詳細を理解し、リスクを回避する対策を講じておきましょう。
①訴訟問題
給料が適正に支払われなかった場合、労働者から訴訟を起こされる可能性があります。
一般的には弁護士が代理人となり、未払い賃金の支払いが請求されることになります。近年では「法テラス」や「認定司法書士制度」が整備されたため、労働者が訴訟に踏み切るハードルが低くなっています。
未払い賃金を放置し続けると、弁護士、司法書士、社会保険労務士、労働組合などさまざまな立場から、訴訟や支払いの交渉依頼が来る可能性があります。
以下それぞれの訴訟パターンとなります。
訴訟パターン
●弁護士
- 弁護士は法律の専門家として、賃金関係の相談をうけることが可能です。「法テラス」などでも気軽に相談ができ、仮に依頼するとなっても労働者の負担が軽減(月々の支払い費用の立て替えなど)されるさまざまな仕組みが備わっています。法テラスが行っている「民事法律扶助制度」という、経済的に余裕のない方が法的トラブルにあったときに無料で法律相談を受けられる制度も存在します。
(参考):日本司法支援センター法テラス 無料の法律相談を受けたい
(参考):日本司法支援センター法テラス 費用を立て替えてもらいたい
●司法書士
- 司法書士は「認定司法書士」である場合、簡裁訴訟代理等関係業務を引き受けることが可能です。簡裁訴訟代理等関係業務は訴訟の目的となる価額が140万円を超えない請求事件が含まれ、給料の未払いも、その金額内であれば司法書士を代理人とする場合があります。
●社会保険労務士
- 社会保険労務士は、企業の採用から退職までの労働、社会保険に関する問題、年金の相談などを幅広くサポートできます。給料の未払いに関しても、対応範囲の場合がほとんどです。特定社労士であれば、ADR代理業務により争いの解決を図ることができます。
●労働組合
- 社内に労働組合があるのであれば、未払い賃金について相談できます。労働組合は、労働者が団結して賃金や労働時間などの労働条件を改善を図るために作られた団体です。
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日本国憲法第28条では、
1. 労働者が労働組合を結成する権利(団結権)
2. 労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利(団体交渉権)
3. 労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権))
の労働三権を保障しています。 - <出典:厚生労働省 労働組合>
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日本国憲法第28条では、
上記2号の団体交渉権により使用者と交渉する権利があるため、未払い賃金について、会社に実際に働きかけることも可能です。
また、訴訟により未払い賃金が認められた場合は、次の3つの「訴訟による罰則」が発生することになります。
●判決による差し押さえの実行
●仮差し押さえ
●遅延損害金の請求
それぞれ、どのような問題が発生するかを解説していきます。
訴訟による罰則(会社が存続している場合)
- ①判決による差し押さえ
裁判所の判決により未払い賃金が認められた場合、判決により差し押さえが実行される可能性があります。差し押さえには「強制執行」と「一般先取特権の実行」の2通りがあり、それぞれの特徴は次のとおりです。 -
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● 強制執行
強制執行とは、民事執行手続きの一種で債務者の財産を差し押さえてお金に換え、債権者に分配して賃金を回収する方法です。
裁判所からの確定判決や和解調書などによって、強制執行ができる内容の文書をもらうことで実行が可能になります。どの財産を差し押さえるかは、労働者によって指定されることになります。 -
● 一般先取特権
一般先取特権とは、債務者のすべての財産から優先弁済を受けることができる権利です。給料未払いは民法306条「一般の先取特権」の2号「雇用関係」に該当するため、有線弁済が可能になります。
裁判所の判決は不要で、強制執行と同様に労働者が何を差し押さえるかを指定することができます。
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● 強制執行
- ②仮差し押さえ
場合によっては、仮差し押えという手続きが取られる場合もあります。仮差し押さえは、裁判で係争中に企業側が財産を散在する恐れがある場合などに、財産を仮に差し押さえて債権の保全を図る、民事保全手続きの一種です。仮差し押さえは、労働者が裁判所に申し立て、債権者面接などの手順を経てから手続きが進められることになります。 - ③遅延損害金
判決により未払い賃金が認められると、賃金発生からその支払いまでの期間に応じた遅延損害金も併せて請求されることになります。遅延損害金は民法第404条に定められており、年率は3%です。ただし、退職から支払いまでの期間については年14.6%の割合となります。
(参考):東京労働局 会社が存在している場合の労働債権確保
(参考):国民生活センター 先取特権
(参考):裁判所 保全事件の申立て
このように、労働者に訴訟を提起されると財産の差し押さえが実行される可能性があります。また、給料の未払いが複数人に及んでいる場合は、一人目の裁判に敗れると連鎖的に訴訟が提起される可能性もありますので、注意しておきましょう。
②労働基準監督署の介入
労働基準監督署(以下、労基署)では、臨検といってランダムに事業所を選んで労務環境の整備状況を抜き打ち調査を行ったり、労働者からの相談経由での調査などを実施しています。
労基署の介入があると、事情聴取や帳簿調査などに相当の労力を費やすことになります。
問題があると判断されると、文書による指導が行われ、問題の是正・改善報告を行う必要があります。場合によっては、その後に再度の調査が実施されることもあるので、指導内容へ適切に対応しておかなければいけません。
また、発見された問題が重大または悪質な場合は、会社が送検される場合もあります。そうなってしまうと社会的信用や企業イメージの低下は避けられず、会社が受ける損害は計り知れません。
ちなみに、労基署の窓口以外にも厚生労働省の窓口相談から労基署への相談に発展する可能性もあります。
厚生労働省は「労働条件相談ホットライン」(電話)、労働基準関係情報メール窓口、外国人労働者向けの相談機関の紹介など、労働者が相談できるように様々な窓口を設けて対応しています。
③労働基準法違反による罰金刑
先に説明させていただいたとおり、賃金の未払いは労働基準法違反となります。
罰則は労働基準法第120条に定められており、給料未払いとなった場合は30万円以下の罰金刑に処されることになります。
このように給料未払いのリスクは非常に多く、訴訟されれば会社自体のイメージなどにも大きくダメージを受けるでしょう。また、給料未払いは意図的ではない管理ミスから未払いにつながってしまう可能性もありますので、システム導入などで未払いを防ぐことが大切です。
給料未払い事例の紹介
会社側が意図的に賃金の支払いを免れようとしたケースと、適切な労働時間管理ができておらず結果として給料の未払いにつながってしまうケースがあります。
実際に発生した2つの事例を紹介していきますので、給料未払いの発生防止に役立ててください。
時間外労働の手当の支払いを免れようとした
1つ目の事例は、旅館業で発生した事例です。この事例は、従業員本人から提出された時間外労働の申告書に記載されている内容を変更して、時間外手当の支払いを免れようとしたものです。
出退勤で利用しているIDカードと自己申告としていた時間外労働時間の記録が大きく乖離していたことから発覚しました。
会社側は、IDカードをもとに実際の労働時間を調査して未払い賃金の支払いを行い、時間外労働の自己申告制を廃止。IDカードを基本とした勤怠管理に切り替えました。
- (参考):厚生労働省 賃金不払残業の是正事例
従業員の自己管理と鍵管理の操作記録が相違
2つ目の事例は、金融業の会社で発生した事例です。この会社では、従業員による労働時間の過少申告により賃金の未払いが発生していました。
従業員が作成していた出退勤記録と鍵管理の操作記録が異なっていることから事態が発覚し、従業員へ聞き取り調査を行った結果、過少申告を行っていることが確認されました。
労基署は、不払い賃金の調査と職場風土による未払いが起こらないように再発防止策を実施するように命じました。会社側は、約18,700時間分の割増賃金支払いを行い、再び不払いが起こらないように労使で相談できる環境を整えました。
給料未払いの防止策
給料未払いが発生する原因には、時間外手当を過少申告するような企業風土や、労働時間管理と時間外手当の計算が連携されていないことなどがあげられます。
ここでは、それらを解決するための具体的な対策について解説していきます。
勤怠管理システムの導入
まずは給与計算の基本である勤務時間を正確に把握する仕組みを整えましょう。
時間外手当や深夜業、休日出勤などがある場合などはそれぞれの時間数の算出を行うことが重要です。紙の出勤簿やエクセル、タイムカードなどで記録したものを手計算しても問題ありませんが、会社によって勤務形態が複雑であったり、事業規模が大きい場合は作業効率に課題を生じやすくなります。
もし、従来のような紙やエクセルによる勤怠管理では正確な記録・集計を続ける事が困難だと感じている場合は、勤怠管理システムを導入することをお勧めします。
勤怠管理システムの導入メリットは、自動集計とデータ化にあります。システム上で全従業員の出退勤時間を集約し、時間外労働や深夜業、休日出勤など割増賃金の支払いが必要な労働時間を自動で分類して算出するため、月末月初の集計業務を効率化することができます。また、集計された勤怠情報は、各給与システムへデータ連携することができるので、給与計算ミスの不安も解消されます。
管理者や担当部署などによる体制づくり
給料未払いへの対策としてもう1つ大切なことが、管理者や担当部署による勤怠管理の体制づくりです。勤怠管理システムの導入に加えて、人の手による適切な管理を実施することで賃金の未払いを防いでいくことができます。
特に経営陣を含む上層部が未払い賃金を防ぐ姿勢を見せることにより、従業員にも未払い賃金はいけないという意識づけを行うことができます。そうして企業風土や職場の雰囲気を改善していくことも、未払い賃金の発生防止には大切です。
また、未払い賃金や労働に関する相談窓口を社内に設置するのも良い方法のひとつです。管理者や担当部署が率先して勤怠管理を行う体制を整え、未払い賃金の発生を防いでいきましょう。
まとめ
今回は、未払い賃金により発生するリスクや防止策について解説しました。
未払い賃金が発生してしまうと、労働基準監督署の介入や訴訟問題、労働基準法違反による罰金刑などのリスクを抱えることになります。そのようなリスクを回避するためにも、適切な勤怠管理ができる環境を作り上げていくことが大切です。
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