<医師の働き方改革>2024年法改正対応のポイントを整理【社労士監修】
2019年に施行された働き方改革法案の一つである「時間外労働の上限規制」において、適用が延期されてきた業種のひとつに医師業があります。2024年からは医師業も規制の対象となり、上限ラインに応じて働き方を変えていく必要があります。特に医師の場合は業種の特殊性から、他の業種とは異なった方法で上限ラインが制定されるため改めて制度内容の確認が必要です。
ここでは、医師の働き方改革が注目されている背景、2024年から始まる法改正のポイントや働き方改革の取り組み事例などについて、詳しくご紹介します。
この記事の目次
医師の働き方改革が注目されている背景
医師の働き方の課題として、不規則な勤務体制と長時間労働による健康問題や医療事故リスクの高さが指摘されてきました。そこで、2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が導入されることになり、医師の時間外労働の是正や健康管理に注目が集まっています。
医師の働き方改革の内容について理解する前に、まずは医師の働き方改革が求められている理由を把握し、適切な対応に活かしましょう。
医師の長時間労働が問題となっている
医師の働き方改革においては、医師の長時間労働が深刻な課題となっています。厚生労働省によると、2019年度の病院勤務医の週労働時間は以下の通りです。
週60時間以上働いている医師が37.8%ほど存在しています。長時間労働の主な要因は、他業種と比べて勤務体制が特殊なところにあります。医師は診察だけでなく、診断書の作成や宿直・呼び出し当番も業務に含まれます。夜間に勤務しなければならない場合も少なくありません。
また、医師の時間外労働が常態化し、休日や休息の確保が難しいため、医師の健康問題のリスクが高まりやすいこと、ワークライフバランスが保たれにくいのも問題点となります。
医師の働き方と医療の安全との関係
勤務時間が長くなるほど、医療事故やヒヤリ・ハットを経験した割合が上昇するというデータがあります。また、睡眠不足と作業能力の低下や反応の誤りの増加には相関性があることがわかっています。
医療現場での些細なミスは、患者の生命を危険に脅かすこととなりかねません。
医療の安全を確保するためには、長時間労働の是正が重要といえます。
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
法改正のポイント
2021年5月28日に「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(医療法)」が公布されました。
改正の目的は主に以下の3つです。
● 医師の働き方改革
● 各医療関係職種の専門性の活用
● 地域の実情に応じた医療提供体制の確保
2024年4月から、医師の働き方改革が順次施行予定となっています。
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
水準ごとの時間外労働の上限規制
厚生労働省では、医療機関や医師の状況に応じて3つの水準を定めました。
勤務医は、A~Cの水準ごとに、時間外労働の上限が規制されています。
具体的な上限規制の内容は以下の通りです。
対象 | 内容 | |
---|---|---|
A:診療従事勤務医に2024年度以降 適用される水準 |
一般の勤務医 | 年960時間/ 月100時間未満(例外あり) ※いずれも休日労働含む |
B:地域医療暫定特例水準 | 地域医療確保のために通算で 長時間労働が必要となる医師 |
年1,860時間/ 月100時間未満(例外あり) ※いずれも休日労働含む |
C:集中的技能向上水準 | 特定の高度な技能の習得が 必要な医師や、経験を積む 必要がある研修医・専攻医 |
年1,860時間/月100時間未満(例外あり) ※いずれも休日労働含む |
原則としてA水準を適用としますが、医療現場は多様でありA水準の導入が難しい医師は少なくありません。
そこで、暫定的にB・C水準を設けて、上限時間の規制を緩和する方針をとりました。
B水準は主に救急医療や在宅医療、高度な専門的治療を担う医療機関の医師の場合に適用となり、C水準は研修医や専攻医、高度な医療技術の習得を目指す医師などの技術向上目的での適用となります。
ただし、B・C水準の適用には医療機関勤務環境評価センターによる第三者評価と都道府県による特例水準医療機関の指定を受ける必要があるため注意しましょう。大まかな流れは、以下の資料を確認してください。
厚生労働省 医師の働き方改革について 2024年4月に向けたスケジュール
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
追加的健康確保措置
1か月あたり100時間を超えて労働する場合、産業医による面接指導や就業中止、連続勤務時間制限28時間や勤務間インターバル9時間の確保などが義務付けられることとなります。
月の上限時間数を超えて時間外労働が行われた場合、面接指導と就業上の措置(就業中止)が必要です。
具体的な措置の内容を確認しましょう。
● 連続勤務時間を28時間までに制限
● 勤務間インターバル9時間の確保
● 代償休息の付与する
上限規制のA水準が適用される医療機関では努力義務となっています。一方、B水準、C水準に該当する場合は義務となっているため、必ず対応が必要です。
代償休息が発生した場合、勤務するはずだった医師が出勤できないため、シフトを組み直さなければなりません。
また、1か月当たりの労働時間が155時間を超える場合、労働時間短縮の具体的措置を講じましょう。
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
施行日までに求められる対応
2024年4月の時間外労働の上限規制適用までの間に、医療機関は医師の労働状況を分析し、労働時間の短縮に計画的に取り組む必要があります。
各医療機関の状況に応じた対応例は、以下の通りです。
ステップ1:時間外労働時間の実態を的確に把握
ステップ2:自施設に適用される上限がどれになるかの検討
ステップ3:取り組むべき「短縮幅」の見極め
上記のステップは、施行前の2023年度中に完了させる必要があります。
同時に、これまで医師が時間外労働で行ってきた業務内容の見直しも求められます。
医師でなくても行える仕事は、タスクシフト・シェア(医療関係職種の業務範囲の見直し)によって他職種に任せるなど、労働時間を短縮しても医師の業務がまわるように改善することが重要です。
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
スケジュール(公布日・施行日)
医師の働き方改革を含めた、医療法や医師法といった法律が2021年5月28日に公布され、順次施行されています。
各医療機関は、2024年度の「長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等」の改正に向けて、関連する法改正の内容の把握と適正な取り組みを目指しましょう。
施行スケジュールは以下の通りです。
改正内容 | 施行日 |
---|---|
長時間労働の医師の労働時間短縮及び 健康確保のための措置の整備等 (医師の働き方改革) |
2024年4月1日に向け段階的に施行 |
医療関係職種の業務範囲の見直し (タスクシフト/シェア) |
2021年10月1日施行 |
医師養成課程等の見直し ※歯科は医科のそれぞれ1年後に施行 |
2023年4月1日施行 ※受験資格の見直しは2025年4月1日施行 |
新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制の 確保に関する事項の医療計画への位置付け |
2024年4月1日施行 |
地域医療構想の実現に向けた医療機関の取り組みの支援 | 2021年5月28日(公布日施行) |
外来医療の機能の明確化と連携 | 2022年4月1日施行 |
持ち分の定めのない医療法人への移行計画認定制度の延長 | 2021年5月28日(公布日施行) |
- (参考):厚生労働省 医師の働き方改革について
具体的な取り組み方法と事例
医師の働き方改革の取り組みポイントや対処法について、詳しくご紹介していきます。
客観的な労働時間管理システムの導入
「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組(2018年3月)」において、医師の在院時間について、客観的な把握が求められるようになりました。
しかし、現状としては、自己申告による勤怠管理を行っている病院が多いです。
自己申告制をとっている場合、医師の在院時間を適正に把握するために、客観的に労働時間管理を行うことができるシステムの導入を検討しましょう。
厚労省によるガイドラインによると、タイムカードやICカード、PCによる勤怠管理を原則としています。(※)現状の勤怠管理が適切なものなのか確認しましょう。
【事例】
勤怠管理システムを導入することで、客観的な労働時間管理が可能となりました。
<主な取り組み>
● 病院が当直医用にスマートフォンを用意した
● Beaconを院内の各病棟とチームステーション、外来、救急外来、医局に設置し、そのエリアを通過した際に自動的に滞在時間を把握できる仕組みを導入した
● 自己研鑽、就寝などの時間については、日報を通じて把握した
自己研鑽の労働時間該当性の整理
業務上、必要と判断された自己研鑽については、労働時間に該当します。所定労働時間内に、勤務場所で行った自己研鑽も労働時間に含まれます。
これまで、自己研鑽が労働時間に該当するかは医師個人の判断に任されており、通常の業務と並行して労働時間外に無給で自己研鑽に励む医師は少なくありませんでした。
今一度、医師へ自己研鑽の時間が労働時間となることを周知する必要があるでしょう。
【事例】
自己研鑽など労働時間に該当するもの・しないものを明確化してガイドラインを作成し、院内で周知を行った事例です。
診療ガイドラインの勉強や勉強会の準備、論文執筆など時間外に自己研鑽を行っている医師が多かったため、ガイドラインの運用開始にともない人件費が増加したものの、業務改善が必要な課題が明確化されるというメリットが得られました。
さらに、各診療科、医師個人が勤務時間管理を意識するようになり、労働時間に対する意識改革が期待できるようになりました。
時間外の申請手続きの明確化
客観的に労働時間を管理できるシステムの導入に加え、時間外勤務の申請方式を明確化することをおすすめします。
医師は急患への対応など、時間外での対応が多くなりがちです。勤務時間を管理しておかなければ、知らないうちに上限規制を超えてしまうケースもあるでしょう。
時間外手続きの申請を明確化することで、不必要な時間外労働を減らし、時間外労働への抑止力としてもはたらきます。
変形労働時間制の導入
変形労働時間制を活用することで、1か月単位や年単位で法定労働時間内に収まるシフトの作成ができます。
病院の勤務形態は、夜勤などによって労働時間管理が複雑なため、一定期間に業務が集中する場合があります。そこで変形労働制により、特定の期間の労働時間をならして法定労働時間の枠内に収めるように勤務予定日を組むという方法があります。繁閑にあわせて労働時間を増減させられるメリットがあり、うまく利用することで効率よく働くことができるため、検討してみましょう。
まとめ
医師の長時間労働は集中力の低下や睡眠不足を招き、医療事故やヒヤリ・ハットの増加につながるおそれがあります。医療の質の低下を防ぎ、安全性を高めるためにも、医師の長時間労働の改善が求められています。今回ご紹介した法改正のポイントをふまえ、2024年の時間外労働の上限規制にそなえることが大切です。
上限規制を守るために、まずは適切な労働時間の管理ができているのか確認することが重要です。厚生労働省のガイドラインにそった勤怠管理の体制が整っているのか確認して必要に応じて見直しを行いましょう。
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- 監修岡 佳伸
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