労使協定は必要?届け出の種類と違反例を紹介
労使協定とは、会社と従業員の間で締結する協定のことです。締結は書面によって行う必要があり、事業所内での労働者の規則および、労働環境に関わる重要な協定となります。労働条件に関わる取り決めに関して、労働協約や就業規則など、会社と従業員の間で結ばれるルールはほかにもありますが、なぜ会社は従業員と労使協定を締結する必要があるのでしょうか。
ここでは、労使協定の基礎知識、その種類、違反した時の罰則などについて、わかりやすく解説していきます。
この記事の目次
労使協定の基礎知識
労使協定とは
労使協定とは、労働者と使用者との間で、書面によって締結される協定のことです。使用者は、基本的に労働基準法を始めとする法律に基づいて、就業規則や社内ルールを策定しますが、それ以外の特別ルールが労使協定になります。労使協定にはさまざまな種類があり、なかでも代表的なのは時間外労働や休日労働に関する協定、通称「36(サブロク)協定」です。
36協定は、労働基準法第36条に関する労使協定で、例えば繫忙期など、使用者が労働者に対して時間外労働や休日出勤などを行ってほしいときがあると思います。その際、時間外労働や休日出勤を認める内容の36協定を労働者側と締結していることで、労働基準法の規定である「1日8時間・週40時間」を超過しても、一定上限まで罰則を受けることなく労働を課すことが可能になるということです。
- (参考):e-Gov 労働基準法第36条第1項
- (参考):e-Gov 労働基準法施行規則第16条第1項
労使協定の目的
国が労働基準法などで定めた最低労働条件の場合、全面的・一律に適用することが実務上不都合と考えられるケースが生じます。これを避けることが労使協定の目的で、使用者と労働者の代表による合意のもと、最低労働条件規制の例外を認めるための手段として導入されたものです。
労使協定は、労基法が制定された1947年からしばらくの間、時間外および休日労働の導入に限定されていました。しかし、1980年代以降は産業構造や就業形態などが多様化し、そのニーズに対応できる法的枠組みの必要性が高まり、労働時間の分野を中心に対象が拡大されて今日に至っています。
注意点として、労使協定は現場の労使の判断を尊重するのが趣旨の一つですが、その適用範囲については、国に決める権限があるということです。労使の合意があれば、どのような例外規定でも可能というわけではありません。36協定の例をあげると、労働基準法第32条に定められている「1日8時間・週40時間」の上限が撤廃されるわけではなく、例外として労働基準法以外の国が定める条件を適用し、一定の限度を超えて働かせることが可能になるものですので、誤認に注意しましょう。
労使協定、労働協約、就業規則、労働契約、法令の力関係
労使協定、労働協約、就業規則、労働契約、労働基準法などの法令が、使用者と労働者の間で交わされる主なルールです。これらの優先順位、つまり力関係は「法令(労働基準法等)>労働協約>労使協定>就業規則>労働契約」となります。
つまり、大きくいえば「国が決めたルール>労使で決めたルール>会社が決めたルール」という力関係になります。
労使協定と労働協約の違い
労使協定、労働基準法に定められた一般的な法律上限では業務遂行が難しいとき、使用者と労働組合もしくは労働者の代表によって書面で締結される協定のことです。たとえば36協定などは、時間外労働や休日出勤を可能にする事を目的に締結されます。
それに対して労働協約は、労働条件改善のために、使用者と労働組合との間で行った取り決めや契約を意味します。
一見、同じことのように思えても、この2つには大きな違いがあります。まず、労使協定の場合、国の定める範囲内で労働基準法を超えて取り決めを交わすことができますが、労働協約は労働基準法で規定された条件の範囲内で定めなければなりません。
また、労使協定を締結する際、労働者側の代表は「労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者」が要件となります。これに対して、労働協約は労働者の過半数に満たない労働組合であっても、締結することが可能です。
その他、労使協定の効力は、適用範囲が定められていない限り、その会社で働いている全労働者が対象です。しかし、労働協約の場合、原則としてその労働組合に加入する労働者のみ効力が発揮されます。ただし、労働組合法第17条で定められているように、労働協約が所定の要件を満たす場合、適用範囲を協約の当事者以外にも拡張することが可能です。
- (参考):厚生労働省 労働組合法第17条
労使協定と就業規則の違い
労使協定は、使用者と労働者の間で結ばれる協定のことです。一方、就業規則は、使用者が労働基準法などに基づいて作成した社内規則で、具体的な内容としては、「労働者の賃金や労働時間などの労働条件」「労働者が職場で遵守するルール」などとなります。就業規則は労使間のトラブルを防ぐことが目的です。
両者の主な違いは、労使協定が使用者と労働者の間で結ばれるのに対し、就業規則は労働者からの聴取義務はあるものの、一方的に作成および変更ができる点にあります。また、労使協定は民事的な権利と義務は発生しませんが、就業規則は民事的な権利と義務が発生し、労働者は就業規則の規定に準じなければなりません。例えば就業規則で「時間外労働に対する割増賃金を従来の賃金を基準として30%割増で支払う」と定めてあったにもかかわらず、実際は125%で支払っていた場合等に、労働者は「就業規則に則って、30%の割増賃金を支払ってほしい」と民事上の権利を主張して争うことができます。
なお、労働基準法第89条、90条において、常時使用する労働者が10人以上である場合、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられています。労働者の中にはパートタイム労働者やアルバイトなども含まれるので、その点は注意してください。
労使協定の種類
労使協定は、労働者に大きな影響を与えるものであることはもちろん、労働基準法と密接に関係しています。さまざまな種類がある労使協定ですが、大別すれば、労働基準監督署への届け出を要するものと、それを必要としないものがあります。それぞれのケースについて見ていきましょう。
- (参考):厚生労働省 労働基準法関係主要様式
届け出が必要とされる主なケース
①時間外・休日労働をさせる場合の労使協定(労働基準法36条)
労働基準法に定められた原則「1日8時間・週40時間」の労働時間を超える時間外労働、休日出勤が見込まれる場合、使用者と労働者の間であらかじめ協定を結ぶことが必要です。それだけでなく、労働基準監督署に届け出を行うことで、時間外労働および休日出勤が初めて可能になります。
【協定届の種類】
時間外労働・休日労働に関する協定届
②変形労働時間制に関する労使協定(労働基準法32条2、4、5項)
労働基準法では、「1日8時間・週40時間」という基本原則が定められていますが、業種や事業場によっては変動が必要な場合があります。その際、あらかじめ労使協定を締結しておくことで、ルール変更が可能です。変形労働時間制は、「1週間」「1か月」「1年」単位で変更することができます。これも労働基準監督署への届け出が必要です。
ただし、1か月単位の変形労働時間制については就業規則でも定めることが可能であり、先に就業規則で定めて労働基準監督署に提出している場合、例外的に届け出が不要となります。
【協定届の種類】
1箇月単位の変形労働時間制に関する協定届
1年単位の変形労働時間制に関する協定届
1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する協定届
③裁量労働制についての労使協定(労働基準法38条の3、38条の4)
裁量労働制とは、一定の業務の遂行および時間配分を労働者個人の裁量に任せ、あらかじめ定めておいた時間を労働したとみなす制度のことをいいます。専門業務型と企画業務型という2つの種類があり、専門業務型は労使協定の締結、企画業務型は労使委員会で決議した事項を労働基準監督署に届ける必要があります。
【協定届の種類】
専門業務型裁量労働制に関する協定届
企画業務型裁量労働制に関する決議届
④事業場外のみなし労働制についての労使協定(労働基準法38条の2)
外回りの営業など、事業場外の仕事に関して、労働時間の計算方法が判断しづらいケースがあります。このような場合、事業場外の労働について、あらかじめ労使協定で所定の労働時間を労働したとみなす制度が「事業場外のみなし労働時間制」です。労働基準監督署への届け出が必要なのは、「みなし労働時間」が法定労働時間を超える場合です。
【協定届の種類】
事業場外労働に関する協定届
⑤労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合の労使協定(労働基準法18条2項)
いわゆる「社内預金制度」のことです。使用者が労働者の委託を受けて、その貯蓄金を管理する場合、労使協定を届け出る必要があります。また、これに関する労使協定を結んだ場合、使用者は毎年4月30日までに、3月31日からさかのぼること1年間の預金管理の状況を所轄する労働基準監督署長に報告しなければなりません。
【協定届の種類】
貯蓄金管理協定届
預金管理状況報告
届け出が不要とされる主なケース
届け出は不要ですが、労使協定や就業規則への記載は必要なものを紹介します。
①賃金から法定控除以外のものを控除する場合の協定(労働基準法24条)
所得税や住民税など、法令に定められたもの以外で、寮費や労働組合費などを賃金から控除する際、労使協定で定めなければなりません。
②フレックスタイム制に関する労使協定(労働基準法32条の3)
フレックスタイム制を労使協定で定めて導入するとき、届け出は不要です。ただし、清算期間が1か月を超える場合には、労働基準監督署への届け出が必要になります。
③休憩の一斉付与の例外(交替休憩)を定める場合の協定(労働基準法34条)
原則として、休憩時間は労働時間の途中で一斉に与えなければなりません。しかし、労使協定を結ぶことで、一斉付与を適用除外することが可能になります。
④年次有給休暇についての労使協定
年次有給休暇に関する労使協定には、いくつかの種類があります。
- (1)時間単位での付与の場合(労働基準法39条4項)
1か月の時間外労働時間が60時間を超えたケースで、その割増賃金率との差額に相当する部分につき、代替として有給休暇の付与を認める制度です。 - (2)年次有給休暇の計画的付与の場合(労働基準法39条6項)
年次有給休暇の付与日数から5日を除いた残りの日数につき、労使協定の締結によって、計画的に有給休暇取得日を割り振ることが可能になります。 - (3)年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合(労働基準法39条7項)
通常の賃金ではなく、健康保険上の標準報酬日額で支払うことが、労使協定の締結によって可能です。
⑤育児・介護休業等の適用対象外の協定
育児・介護休業の取得等ができない人の範囲を労使協定で定めることができます。ただし、取得できない者は自由に設定できるものではなく、一定の範囲に限定されることに注意しましょう。
届け出が不要でも周知は必要
労働基準法第106条において、労使協定は締結するだけでなく、就業規則と同様に労働者に周知することが義務付けられています。具体的には、労使協定を常時各作業場の確認しやすい場所に掲示しておく、あるいは労働者への書面での交付などです。締結した労使協定が労働者にわかりにくい場所にあると、それは周知していないことになってしまいます。就業規則と同様、確認しやすい場所に掲示するなどしておきましょう。
労使協定に違反すると
違反したときの罰則について
使用者と労働者の間で締結した労使協定を労働基準監督署に届け出ずに、使用者が労働者に時間外労働や休日出勤を求めた場合は、労働基準法違反になります。そのとき罰則の対象となるのは使用者だけでなく、現場の労務管理を担当する責任者も含まれるので、注意しましょう。罰則を受けるケースとして考えられるのは、主に次の2つです。
●労使協定を締結せず、なおかつ労働基準法に定めのある項目を違反
●労使協定を締結してはいるが、そこに定められた上限もしくは規制を超過
違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。それだけでなく、企業名が公表されるなど社会的制裁を受けるかもしれません。これまでの延長線上で考えず、さまざまなコンプライアンスが求められていることを意識する必要があるでしょう。
違反の事例
さまざまな種類のある労使協定の中で、代表的なのは時間外労働や休日出勤に関する36協定です。そのため、労使協定違反というと36協定違反を連想しがちですが、みなし労働や変形労働時間制などに関しても、労働基準監督署が是正・改善を勧告もしくは指導しているケースはあります。自社の状況が問題ないのか違反事例を参考にご確認ください。
事例①36協定
「労働基準監督署に36協定を届け出しているが、労使協定で定めた限度時間を超えて時間外労働を行わせている」
36協定違反の代表的な事例の一つです。通常、36協定には何時間残業をさせることが可能なのかを労使で取り決めた「限度時間」が明記されています。
なお、労使で取り決めても無制限にはならず、36協定に記載できる限度時間は「月45時間、年360時間」までとされています。これを超える場合、いずれにしても無効となります。
- (参考):厚生労働省 監督指導事例
事例②変形労働時間制
「労使協定で1週単位の変形労働時間制を採用したが、事前に一日の所定労働時間を決めずに働かせ、労働時間が8時間を超える日があったら、代わりに翌日以降の労働時間を短くすることで時間外労働を相殺し、割増賃金を支払わなかった」
この場合、労働基準法32条違反となり、30万円以下の罰則が適用されます。
変形労働時間制は、あらかじめ労働日と日ごとの労働時間を決められないと、採用することはできません。つまり、あらかじめ決めることが困難な業務に関しては、変形労働時間制を適用するのは不可能となります。
- (参考):松本労働局 労働条件問題事例集
事例③事業場外労働のみなし労働時間制
「ほとんどの時間で、何をしているのかどれくらい時間がかかるのかを把握することができる業務だが、主な業務が外回りで事業所にいない時間が多いという理由で、事業場外労働のみなし労働時間制を適用させている」
事業場外労働のみなし労働時間制は、上司などの使用者側の指揮命令下の範囲内である場合や労働時間が算定可能な場合は適用外となります。この労使協定は、労働時間が法定労働時間を超えて算定不可能と判断される場合において適用されるものです。たとえば外回りの多い営業職であっても、ある程度の事務作業は事業所で行う必要があると思いますが、それらの時間は労働時間の算定ができると判断されるため、分けて算定しなくてはなりません。
- (参考):松本労働局 労働条件問題事例集
労使協定の締結方法
最後に、どのような流れで労使協定を締結するのか3ステップに分けて解説いたします。
STEP<1>労使協定の締結準備
労使協定は、使用者と労働者の過半数で組織する労働組合、もしくは労働者の過半数を代表する者と、書面で締結を行います。労働組合がある場合は、労使協議の上、労使協定の締結を行いますが、労働組合がない場合、労働者側の締結当事者を決めなければなりません。したがって、まず労働者の過半数を代表する者を選出することが、労使協定の締結準備の第一歩といえます。
労働者の過半数を代表する者の選出には、民主的な方法での選出が欠かせません。例えば、使用者側から代表者を指名することは禁止されています。
選出にあたっては正社員のみならず、契約社員やパート、アルバイトなども含め、事業場で働くすべての労働者の過半数を代表していることが条件となります。また、労働基準法第41条第2号に該当する「管理監督者」でないことも、条件になります。
STEP<2>労使協議
立候補や推薦などで候補者を選び、投票や話し合いを経て、民主的に選ばれた代表と使用者が労使協議を重ね、書面によって労使協定を締結します。
STEP<3>締結届出
届け出義務のある労使協定は、労使双方で合意の上、書面で締結するだけでは効力を発揮することはできません。労働基準監督署に届け出を行ってから、その効力が認められるので、速やかに提出しましょう。
まとめ
本記事では、労使協定に関することについて解説してきました。労使協定は、労働者が安心して働くために欠かすことのできないものです。使用者が労使協定を不適切に取り扱うと、会社への不満から労働者のモチベーションの低下に繋がりかねません。また、情報化社会の中、労使間トラブルをはじめとする企業の不祥事はすぐに広まってしまいます。さらに、コンプライアンス重視が進み、労働基準監督署による取り締まり強化もあり、経営における使用者にとって労使協定の遵守は喫緊の課題です。まだ対応できていない企業は、すぐに社内調査のうえ労使協定の締結を行いましょう。
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